僕の兄より軽薄な男はそうそう居ないだろう。フリーのファッションデザイナーとは名ばかりで、出会い系で知り合った本名も知らない女性達といつも遊んでいる。顔がそれなりに良い上に愛嬌もあるものだから随分と可愛がられているらしい。仕事なんて、しているんだかしていないんだか
問題は、そんな兄と僕は二人暮らしをしているということだ。仲の良い兄弟で羨ましいなんて言われることもあるが、実際は自由奔放な兄の世話を両親から押し付けられたに過ぎない。先日も、酒臭い体で朝を通り越して昼に帰って来たかと思えば夜通し書類作りをしている僕にうざい程絡んで来た。
金に近い茶髪がかかった額を僕の左肩に擦り付けながら、お前は相変わらずお堅い、そんなんだから彼女の一人も出来ない、最後にセックスしたのはいつだ、とか、とにかくむかつくことをいろいろと言ってくる。眠気と焦燥感で苛立っていたことも相まって、僕は兄を無理やり押し退けた。
そんなに力を入れたつもりは無かったのに、アルコールが入っていたせいなのか、兄はよろけて床に倒れた。その拍子に兄の着ている薄いTシャツも綺麗に捲れ上がった。完全な不可抗力ではあるが、外気に晒された兄の下腹部に、ねちっこい程の数のキスマークの跡があることを知ってしまった。
エロくね？やばいよな、暫くは女の子の前で下しか脱げねえよ。何を想像しているのか、その艶を含んだ笑い声には、学生時代に宿題そっちのけで家で服のラフ画を永遠と描いていた頃の面影なんて無くて。
何て言うか、捕まえておきたくなった。
あの後、呑気に眠る兄を拘束してもう五日が経つ。ベッドと繋がる重厚なシルバーの手枷は、皮肉な話だが兄が仕入れてきたものだ。その辺に売っている力付くで取れるような枷とは違うと告げると女の子が簡単に従順になる、とも言っていたっけ。
「でも、兄さんは簡単には従順にならないから。苦労するよ」
「おまっ…え、本当に、おぼえ、て…おけ、よ」
兄のお尻は、バカみたいに派手なピンク色のバイブを咥えこんでいる。ベッドに寝転んだ裸の兄を正面から見るこの構図はこの監禁生活中、何度見ても飽きが来ない。部屋には、規則正しい機械音と、中でローションがぐちゃぐちゃとかき混ぜられる音が響いている。
「こんなに大きいのも入るなんて、やっぱり遊び過ぎだね。兄さんの女王様は何人いたわけ？」
「べ、つになんでも…イぃっだろッ」
相変わらず反抗的だ。僕が忙しい仕事の合間を縫って食事からお風呂まで全部お世話してあげてるって言うのに。
バイブの持ち手を掴んで悪戯にゆるゆると出し入れしてみる。
「くっ…はぁっ、ぁあ」
さっきまで耐えるばかりだった顔が一瞬緩んでとろけた。と思ったら、また苦痛に耐えるような顔をしている。汗ばんだ体が時折無意識にぴくぴく動いてしまうようだ。
「ねえ、あんまり抵抗しないで」
バイブを一気に突っ込んで、ぐりぐりと奥を押し潰す。
「いやぁ、だって…それぇ」
女性の前で普段はかっこつけている兄が、幼い子供がぐずついているかのような声を出す。ここ最近気付いたことだけど、これだけ声が上擦っている兄は限界間近だ。
「僕は兄さんを泣かせたいわけじゃないんだよ。兄さんだって辛いのは嫌でしょ？女遊びなんて止めてさ、僕の言うことだけ聞いて」
「んっ、き、く。聞くからぁ…もぅ」
何度も何度も繰り返すやり取りだが、ことが終われば兄はいつもの反抗的な兄に戻ってしまう。半ば諦めかけてはいるが、それでもこの会話を止められない。僕は兄をちゃんとした人間にするためにこんなことをしているはずだから。いや、そもそも最初はカッとなってやってしまったんだっけ。あの時、兄の腹部を見てなんであんなに
「ねぇ、おねが…いっ、あ、あっ…はやくぅ」
まあ、今はそんなことどうでも良いか。興奮しきった兄の中をバイブで素早く擦る。
「イッ、ぁ、やだぁっ…あ、あぁあっああ……」
派手な喘ぎ声とは対照的に兄の精液はとろとろと零れ落ちるように垂れていた。落ちた先には日毎に薄れている腹部のキスマークがあって、精液がかかると、にじんで一時的にもっと薄まって見える。
もしかしたら、僕はこの光景を見るためにこんなことをしているのかもしれない。もう少し薄めようか。なんて、兄は二回目以降の方が可愛いげがある、と気付いた監禁初日から、一回で終わらせたことは無いけど。
放心している兄を横目に僕は次のおもちゃを手に取った。
「あー、その辺はちょっと納期が被っちゃいますね。時期も時期ですし。パタンナーさんとのね、調整もいろいろあるんですけど」
そんな納期で出来るわけねえだろ。はした金でよくそんな提案出来たな。言いたいことを全てぐっと飲み込む。フリーランスは信頼を失ったら終わりだ。長丁場を覚悟して、まだ寒さが残るのにベランダにシャツとパンツだけで出て来てしまったことを少しだけ悔いた。
持ち前の愛嬌でなんとか妥協出来るところまで話を纏め上げた。通話を切り上げタバコを咥える。ずっと手枷を付けっぱなしにしているから手首が少し痛む。もっと頻繁に外した方が良いかもしれない。実はその辺で買ったやつだから、何度も無理やり留めたり外したりすると壊れそうな気がしてならない。
それにしても弟は昔から甘い。手枷の件だけじゃない。スマホに関しても俺が二台持ちだと気付かずに、一台しか取り上げなかった。こんな生活だと、遊びに行けないから女の子達との連絡は適当にかわして、弟が寝ている隙にパソコンで仕事ばかりしている。あんまりちゃんとしているって思われたくないんだけどな
この生活は案外快適だ。
シャツの裾を捲ると事の発端の腹部が出てくる。あれだけあったキスマークも時間の経過と共に見えなくなってきた。これが無くなったら、あの真面目ぶった弟はどうやって自分を納得させるんだろうか。今夜が楽しみだ。
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