オシオキモード、実行

「アーッ待って待って！ストップ！違ッあッ」
技術者である渡瀬は、焦っていた。それもそうだ、自分が開発を担当している快楽マシンに、犯される寸前なのだから。
「なんでこんなことにッなんで、ひ！ちょっと待てストーップ！」
マシン本体のシャットダウンを行うために必死でキーボードを叩くが、その甲斐も虚しく快楽マシン『お仕置きくん』は、渡瀬の身体にするすると電動ケーブルを伸ばし、締め付け始めていた。触り心地にこだわった、一級品のケーブル。まるで生物のような脈動を再現した、渡瀬自慢の出来。しかし、自分で体験する予定なんてなかった！
そのケーブルが的確に渡瀬の洋服を脱がしにかかっていく。
「アーーーッそれ以上はダメです！誰か！助けて！」
渡瀬以外に誰もいない部屋の中、必死に身を捩り声をあげたところで誰の助けも見込めそうにない。
「ターゲット、衣服剥奪完了」
「ヒッ」
「オシオキモード、実行マデ、アト３０秒」
渡瀬は、こんなマシンをウキウキで開発していた自分を呪いたくなった。
元はと言えば、気に食わない同僚を見返すために使うつもりだったのに。そのためのマシンにさえ裏切られるなんて自分はつくづく運がない。
『お仕置きくん』の本体へと目を向ける。電動ケーブルの先にあるスケルトンカラーの本体は、液晶にカウントダウンの数字を表示したうえ、怪しい色に光りながら内部のモーターをフルに稼働させていた。
＜生意気なアノ子を、あらんかぎりの技術で喘がせます☆わからせ担当☆お仕置きくん☆＞
自分のパソコンに貼った、浮かれたメモの内容に腹を立てたところで後の祭りだ。
「２…１、オシオキモード、実行開始」
（わからせられるのは、オレだったんだ…）
渡瀬は目を瞑り、考えることをやめた。

激しいモーター音と共に、ぐちゅ、ずちゅッと粘膜の擦れる音が狭い部屋の中に響いた。
『お仕置きくん』から伸びた電動ケーブルは、ゴツゴツとしたいぼの付いた凶悪な見た目へと変化を遂げて、渡瀬のあらぬところへと遠慮なく出入りを繰り返していた。
もちろん、逃れることは許されない。身体中を残りのケーブルに巻き付かれ、両手をまとめて縛り上げられ、足は大きく開いた恥ずかしい恰好で固定されていた。
「コタエロ」
『お仕置きくん』搭載機能の中で、渡瀬自慢のひとつであった「わからせ」が思う存分遂行されていた。
具体的に言うと、搭載カメラが補足対象のあらぬ姿を撮影し、その映像を本体液晶にリアルタイム表示するという機能だ。
『お仕置きくん』はその映像を補足対象に十分見せつけながら、意地悪な質問を問いかけをしてくる。
「ひ、ぁッあ、お尻ッおしりが、おか、犯されていまッぁす！」
「見エルカ」
「んあああああ」
「見エルカ」
「見えますッ！見えます！ひ、あ…」
質問にきちんと答えることが出来れば、少しの間『お仕置きくん』の動きは緩やかになり渡瀬に少しだけ余裕ができた。
（なんとか、なんとかお仕置きくんを止めないと、これは戻れなくなる…）
渡瀬は、自分の才能が恐ろしくなっていた。あまりにも容赦なく、あまりにも的確な『お仕置きくん』のプレイスタイルは正直に言ってあまりにも好みだ。
勿論、自分の趣味嗜好から考えられたプログラミングなのでその可能性は、はなからあったのだが渡瀬はこれまで見る専であり、自分自身の尻を開発しようなどとは夢にも思わなかったのだ。それが自分のマシンによって実行され、あまつさえその虜になりそうだなんていうのは、控え目に言って悪夢だった。
「ヨソ事ヲ考エテイルナ」
「ああああそ、ヒ、めっそうッ滅相もないですぅうう」
更に太く変形した電動ケーブルもとい極悪バイブ腕で容赦なく奥を突かれていくと、渡瀬はもう何度目かわからない懇願をする羽目になる。
「あああ、でちゃッでちゃいますぅう」
渡瀬の発言を聞いた『お仕置きくん』は、ピピッと機械音をあげると、処理モードに入った。
「補足対象、バイタル確認…虚偽ナシ、申告受理…」
渡瀬は、この後のことを思い、ひんひんと泣きべそをかいた。
「エライゾ」
新たな細くて柔らかいケーブルが、渡瀬の立ち上がって爆発寸前の陰茎を優しく縛り上げた。
「耐久モード、５分」
「ゆるしてぇ…」
「申告拒否、開始」
「ひぃいいいんッ」
『お仕置きくん』はそう簡単には射精することを許してはくれない。対象者の陰茎を縛り上げたのち、5分間アナルを犯しつくす。
その後、ご褒美として射精を許してくれるのだ。渡瀬は考えた。どこのバカがこんなプログラミングを考えたんだ、ある意味天才だ。
もちろん黙って射精することも許されない。内臓のセンサーが、補足者の状態を逐一記録して処理している。申告無しに射精した場合、その後の３０分は恐ろしい目に合う。
渡瀬は自分が開発者で良かったと思った。そんなのは初見殺しだ。もっとも恐ろしい目に合うことだけは避けられただけ感謝したい。
「イきあい…っイきたいよぉ…」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、いくら腰を振ってみたところで『お仕置きくん』は許してくれない。それどころか、目の前のモニターに逐一自分のその情けない姿が映っているのだから、本当に興奮モノだ。願わくばこの痴態を晒しているのがあの同僚であったら…最高だったのに。
しかし渡瀬にはまだ希望が残されていた。
もうそろそろ＜お仕置き完了コマンド＞が『お仕置きくん』から提示されるはずだ。まさか最後までお仕置きを受けきるハメになるとは思わなかったが、終わりが見えてきただけマシだ。
「アト30秒…変態、ウレシイカ」
「ひッ、んん、あっうれし、うれひいですぅ！」
「10…5…、許可遂行、解放」
「ひぃぁああああんッ」
渡瀬は、解放された喜びに背をしならせて身を震わせた。陰茎からはビュクッビュクッと白濁を溢れさせ『お仕置きくん』の本体液晶を汚した。
ピピッと機械音が鳴る。渡瀬は、はあはあと息を荒げながら、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をゆっくりと『お仕置きくん』に向けた。
「ワカッタカ」
きた、渡瀬は笑顔が溢れそうになるのを堪えた。
「わ、わかりました…とても…はい…」
「本当カ」
「はい、本当ですう」
ピピッ、また機械音が鳴った。
「処理モード…展開…宿題モード必要…確認、実行許可…」
あれ？っと渡瀬は思った。宿題モード？そんなものを搭載した記憶はない。
「お、お仕置きくん？いや、お仕置きさま？」
「ピピッ音声データ再生」
「へ？」
「あ、あーテス、テス。渡瀬？ドーモ。面白いもん作ってんじゃん」
『お仕置きくん』から流れた音声データに渡瀬はヒッと悲鳴を上げた。あの、同僚の声だ。
「面白いマシンじゃんと思ったからさ、オレも協力しといてあげたよん。じゃ、オレからの宿題受け取ってね～」
「宿題モード、開始」
『お仕置きくん』は、渡瀬を縛り上げていたケーブルを解いていくと、そのまま渡瀬を床に下ろした。
「な、なにが始まるの…？」
渡瀬は、ぶるぶると期待…いや恐怖に震えた。すると『お仕置きくん』の液晶モニター下部の機構から、ジーッという音とともに一枚のディスクが排出された。
渡瀬はそれを恐る恐る手に取った。そのディスクには見慣れた同僚の字で「君の痴態をプレゼント♡」とメッセージが残されていた。
録画機能はつけなかったはずだ。ということはあの同僚が勝手に『お仕置きくん』を改造してーーそもそも今日の暴走もーー？
渡瀬はその事実に気付くと、鼻をぐずぐずと鳴らし悔しがりながらそのディスクを大事にデスクの上に置いた。
勘違いしないでほしいが、研究者にとってデータというものは如何なるものでも軽んじてはならないからだ。それだけことだ。