ロボットに支配された世界と僕

 僕たちの生きる世界は〝ロボット〟に支配されている。
 正確には、機械に改造された――〝元人間〟達にだ。
 彼らは、脳以外の人体のほとんどを機械化しており、己の欲望のままに世界を蹂躙していった。
 世界が一変するまではあっという間だった。
 政府機関も軍隊も既に、その機能を失っている。
 荒廃した街で、僕たち普通の人間は彼ら――〝ロボット〟から日々逃げ続けているのだ。
「――兄貴はまたくだらねぇ日記を書いてんのかよ」
 ペンを動かしていた手を止め、視線を上げる。
 そこには、今年で18歳になる弟の蓮(れん)が呆れ顔で立っていた。
「あれ? 今日の食糧調達からもう帰ってきたの?」
「ばーか、時間をみろよ」
「うわっ!? もうこんな時間!」
ボロいむき出しのコンクリートの壁に取り付けられた時計は午後19時を過ぎていた。
どうやら僕はまた時間を忘れて、日々の記録である日記を書いていたらしい。
「今からご飯のしたくするね!」
「さっき作っちまったよ。ほら、食おうぜ」
慌てて晩ご飯の準備にとりかかろうとする僕を呼び止めた蓮が、背後のテーブルに並んだ料理を親指でさした。
二つ上の兄である僕より弟の蓮の方がよっぽど頼りになるなぁ、と内心苦笑しつつ、
「ありがとう」
 と素直な感謝の気持ちを弟に伝えた。
「……気にすんな」
 ぶっきらぼうな言葉の割に少し照れたように頭を掻く蓮の微笑ましい姿。
 こうした何気ない風景が嬉しくなりニコニコと笑ってしまう。
 晩御飯を向かい合って食べる幸せなひと時。
パンを食べながら、蓮が話しかけてきた。
「そういえば、今日の探索で面白い場所を見つけたんだ」
「面白い場所?」
「ああ。兄貴好みのレトロな遺産ってところかな」
「ホントッ!!」
 ガタンッと椅子が軋りを上げる。
 大のレトロマニアな僕は興奮して思わず立ち上がってしまった。
「落ち着けって」
「ああ……ごめん、ごめん」
 苦笑交じりの蓮と我に返って赤面する僕。
「晩御飯食い終わったら、散歩がてら一緒に見に行こうぜ」
「うん! そうしよう!」
 急いでパンとスープを口にかき込む僕の姿を見つめる視線に、ふと顔を持ち上げる。
そこにはテーブルに頬杖をついた蓮。
その表情は、今日一日の中で一番優しげだった。

 廃墟という名の我が家から歩くこと1時間。
 〝ロボット〟は日中時間帯に活動し、夜の時間に充電を行っているため、比較的夜は安全なのだった。
 しかし、用心に越したことはない。
 周囲を警戒しつつ、弟の蓮が古びた洋館に入っていく。
その背中を追って僕も中に入っていった。
 暗いエントランスを抜け、地下へと続く階段を降りていく。
 行き止まりの扉を開けるとそこには、
「うあーー!!」
 図書館とも呼べる規模の書庫が広がっていた。
「すごいだろ」
「うん! 本当にすごいよ!!」
 蓮が得意げに自分の発見を誇る言葉を聞きながら、僕は並んだ棚に収められた蔵書を次々と見ていく。
 思った以上に状態の良い広大な室内を弟と並んで散策していく時間が過ぎていった。

「そろそろ帰るぞ、兄貴」
「もうちょっとだけ待って!」
 歩き疲れた弟は備え付けのソファーに腰かけながら帰宅を促したが、興奮がおさまらない僕はもう少しだけここで蔵書を見ていたかった。
「明日もまた来ればいいだろ?」
「そうだけど……」
 聞き分けのない兄に呆れたように一度溜息をついた蓮は、
「はあ……もう少しだけだぞ」
 結局、折れてソファーに倒れ込んだのだった。
「ありがとう! 寝て待ってていいから!」
 返事の代わりにひらひらと振られた手だけが返ってきた。

どれくらいの時間が経っただろうか。
 静まり返った書庫は時を忘れてしまったかのような雰囲気で満ちていた。
 弟が寝ているソファーまで戻ってきたが、蓮の姿どこにも見当たらない。
 トイレにでも行ったのだろうか?
 地下から地上のエントランスへと繋がる階段を上っていく。
 しかし、弟はそこにもいなかった。
 その時、上階から、
『――やめてくれッ!』
 蓮の絶叫が聞こえてきたのだった。

 駆け上がった階段に躓きながらも、声が聞こえてきた部屋を目指してく。
『頼む……! 本当にやめてくれ!』
 再び弟の苦痛に満ちた声が聞こえてきた。
 この部屋だ。
 扉を勢いよく開け放つ。
「蓮! 大丈夫――」
 目に飛び込んできた光景に思わず、口を閉ざしてしまう。
 寝室と思われる月明りに照らされた洋室。
 淡い月光に映る裸に剥かれた弟の蓮。
 彼をキリストのように磔に押さえ込んでいる異形の物体。
「なんで……〝ロボット〟が……」
 蓮は〝ロボット〟の体から伸びる無数のチューブ状の管に手足を縛られ宙に浮いていた。
 触手のような管が弟の乳首を愛撫し、尻の穴を執拗に何度も出入りする音。
「あぁ……!」
 どこか恍惚とした声が弟の口から洩れていた。
 〝ロボット〟は無言のまま新たな触手を伸ばすと、蓮の逞しくそそり立った肉棒をしごき始めた。
「うっ……」
 ピクンと跳ねた蓮は苦しそうに背中を反らす。
 触手の先っぽの形状が変形すると、ちょうど勃起した弟の性器を包み込めるバキュームのような形となり、
「んっ! あぁ!」
 今にも白い精を吐き出そうと膨らんだ肉棒をチュパッ、チュパッと音を立てながら吸い上げていく。
 始めは抵抗していた弟も、今は諦めたようにされるがままになっていた。
 時々聞こえてくる官能的な声を除いて。
 そして、弟は――
「うっ……出るっ」
 機械の体をした異形の生物の中に、己の熱い精液をぶちまけたのだった。
「ハア、ハア、ハア……」
 〝ロボット〟に凌辱された弟は、苦しげに吐息をもらしていた。
「おわったの――んっ!?」
 気付かない内に伸びていた機械の腕に捕獲されてしまう。
 全身をまさぐるようにチューブがはいずり回る悪寒。
 花開くように服が破け、弾け飛ぶ。
「まっ、待っ……アアッ!」
 尻の穴に勢いよく潜り込んできた異物に声が裏返る。
 その時、
『ここがいいのか?』
 機械の合成音のようなひび割れた声が〝ロボット〟から聞こえてきたのだった。
『無言で攻めるのも飽きてきたところだ。次はお前で遊んでやる』
「やめっ……!」
 自分の意志とは関係なく、初めての感覚にビクンッ、ビクンッと体が跳ねてしまう。
 ゴリゴリと腸の中を蠢く管は奥へ、奥へと進んでいき――勢いよく引き抜かれた。
「あぁっ……!」
『なんだ? これが気に入ったのか?』
 尻を犯されている羞恥心と嫌悪を抱きながらも少しずつ感じ始めている本能。
 気が付けば、自分の肉棒がそそり立っていた。
 苦しげに腫れあがったそれの先から、トロリと垂れる先走り汁が光を反射し煌めく。
『ハハッ! アナルで感じているのか、お前!』
「ち、がう」
『嘘をつけ! こんなにも勃起しているだろう!』
 弟を凌辱していたバキューム上の触手が一気に僕の性器を吸い上げる。
「アアァ……!!」
 僕の初めては〝ロボット〟の男に奪われてしまった。
 感じたことのない電流のような信号が全身を巡り、
『ほらイケッ!』
 白濁とした濃い精を〝ロボット〟の男に解き放った。

 いったい僕は何度イカされたのだろうか。
 3回目以降から数えるのを止めてしまった。
「もう、許して……もう、出ない……」
『それを決めるのはオレだ』
「んっ……!?」
 再び激しく動き始めた尻穴を攻めるチューブの刺激が、肉棒を無理やり復活させた。
 チュパッ、チュパッといやらしい音と僕の朦朧とした喘ぎ声だけが室内を埋め尽くす。
『おら! これで最後だ! 盛大にイケェ!!』
 〝ロボット〟の男の声に呼応するように、僕は射精したのだった――……

 僕たち兄弟はこの荒廃とした世界で今日も生きている。
 日中は日記を書き、弟と晩御飯を食べる毎日は変わらない。
 ただ一つ、夜の時間を除いて――
『なんだ? 今日も来たのか、お前たち』
 今夜も廃屋の洋館を訪れる。
『いつもみたいにおねだりしてみろ?』
 〝ロボット〟に犯されるために。
「どうか、僕たちを支配(凌辱)してください」
 そして、世界と僕たちは〝ロボット〟に支配されて生きていくのだ。
        <おわり>

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