雲の上でしか、イケない体

「ん、ふっ…あ、い…っ、いく」
 久住(くずみ)は堪えきれず開いた足を痙攣させる。
 がっちりと久住の体を何本ものコードが巻き付き、座っている椅子に固定する。男にしては細く白い両足は大きく広げられ、腕は頭上で一つに組まれていた。
 「っ…ああぁ…」
 腰が前後に揺れ、だらだらと長い射精が続く。久住は栗色の髪を振り乱しながらその快感に耐えていた。もう何度目の絶頂か覚えていない。ただ、予定された時間まで久住の体からその怪しげなコードが離れることはないのだ。

 「ちょ、待って…っ、まだ出て、止まっ、あ、んっ…あぁぁぁ…」
 久住の身体中をベッタリと濡らす半透明の黒い液体。あちこちのコードから染み出すように出ているそれはオイルのような匂いをさせながら久住の体を濡らし、そうして、ぐじゅぐしゅとより一層太いコードを久住の体に埋めていた。
 「も、もう…体、もたな…っ、い」
 締め付ける彼の中を暴れるように動く太いコードと、彼の体のあちこちを愛撫するように動く細いコード。巻きつくようにして犯すその赤いコード達は、久住の白い肌によく映えていた。

 「…は、ぁ、…管制室、こちらジーク、久住。無事、フライト終えました」
 G9、通称ジークと呼ばれる特殊なその航空機を操縦できるのは、選ばれたパイロットのみであり、その試験は難関を極める。
 普通の航空機よりもずっと速く移動し、天候の影響も受けないジークは、誕生して以来、多くの資産家たちがその搭乗チケットを高額で落札している。勿論、ビジネスの面で、何より早く動けるジークは大きな強みになる。しかし、チケットを狙う大半のものの目的はそれではなかった。

 「やぁ、お疲れ様」
 管制室に報告を入れ終えた久住の後ろから操縦席に現れたのは、今日の客の男。高級車が一台買えるような値段を出して、たった2時間のフライトを酒を片手に楽しんだのだ。それも目的なく、ただ適当に飛ばして空港に戻れば良いからと告げ、フライトの最中も椅子に座り久住を眺めていただけの男である。
 「たまたまいつもの子のチケットが取れなかったけど、君のフライトも最高だね。流石ジークのパイロットは粒揃いだ」
 近づいてきた彼は久住の頬を撫でると、その手に久住の体を濡らしていたオイルを馴染ませ下に滑らせていく。椅子にもたれかかる久住は航空会社から支給された制服を着ているが、ワイシャツのボタンは外れ、ベルトも緩められて下着も下げられている。そうして男にしては華奢で白い肌に絡みつくように、操縦席から伸びた何本もの赤いコードが、久住の小さな乳首や白濁に濡れた陰部に巻きついているのだ。
 「っ、お客様、勝手に体に触れられては…」
 「少しくらい良いじゃない。ねぇ、ジーク。こっちは大金を出しているんだ、君だけが味わうのは少しずるいよねぇ」
 男の手から逃れるように体をのけぞらせながらも、汗やオイルでぐっしょりと濡れ赤く火照る久住の姿は、男の劣情を煽るのに十分だった。彼はねっとりと久住の体に視線を這わす。
 「すごく綺麗だよ。この小さなところにあんなに太いものを入れていたんだね…」
 しかし、男の手が久住の下肢に触れた瞬間、操縦室が赤く染まった。目が眩むほど眩しいライトが男を照らし、大きな警報音があたりに響く。
 「触レルナ、離レロ」
 抑揚のないその冷たい声と共に、操縦席から伸びるコードの数が一気に増える。久住の体を埋め尽くすほど伸びたコードは、男を跳ね除けるように動き、久住に触れていた男はそのまま2、3歩奥へと下がった。
 「機械のくせして煩いやつだな」
 警報音と共に飛び込んできた警備員たちに囲まれ、そう嫌味を残した男が連れられていく。操縦室には久住だけが残されていた。

 「アイツ、出禁ニシロ。良イナ」
 …いや、正確に言えば久住の他に1体。
 ジークは自動運転が主流になった世界で、悪趣味な研究者が生み出した人工知能、それも感情まで植え付けられたプログラムである。
 世界では人工知能はあっても、そこに感情や意識はない。しかし、実際にはそれは可能で、それをもってして大金が動くため、こうして一部の人間にしか知らされていないのだ。

 ジークは今、航空機の自動運転のプログラムの中に植え付けられている感情を持ったAIである。彼が行うことは航空機の運転、そして…パイロットへの凌辱である。
 所謂、ショーなのだ。航空機の中という閉鎖された空間。客は大金を払って、非日常を買い取る。中での出来事を知るのはごく一部の者たちだけで、そして航空機の性質柄、問題は全て機長である久住らが取り締まれる。よってどこの法律にも属さず、ここでの出来事はチケットを持った者達の特権である。一般には大金を払ってでも乗りたい快適で、そのチケットを持つことこそがステータスになり得る最高級の航空機。しかし、その内情はずっと爛れていた。

 翌日、久住はまたフライトを控えていた。通常、連日で飛ぶことは珍しいが、大金を払う客に対しては別で、自室で休んでいた久住は連絡を受けた後、まだ重い体を起こして制服を身につける。
 何もない質素な部屋。誰もが憧れるジークのパイロットで、30手前にして生涯暮らすのに困らないほどの破格の給料をもらっている久住だが、既に長年の勤務で心をすり減らしていた。普通の恋人では満足できない身体に作り替えられているため、パイロットとしてジークと仕事をするために最低限の食事や、ジムでの体力作りはしているか、それ以外で興味が持てることは無くなった。
 もう既にジーク以外では満たされず、彼と触れ合う時間以外に、久住が望むことはないのだ。

 「今日もよろしくね、ジーク」
 操縦席に向かい、電源のスイッチに手を当てる。今の久住にとっては、伸びてくる一本一本のコードですら愛おしく思えていた。

 気流で少し揺れる機内で乱れる久住の姿は、今日も客室の大きなディスプレイに映され、客を喜ばせる。
 「ん、ぁあ…もっと…」
 冷たいコードがその白い肌を強く縛り付けて痣を作っても、鋭く鞭打って酷く腫れても、久住はそれを辞められない。
 「っ…全部、ぐじゃぐしゃにして…ふぁ、ん…あぁぁ…」
 オイルの匂いに微睡みながら、与えられる全ての快感を受け入れていく。すっかり柔らかくなった後孔に、ずぶずぶと太いコートが入って、久住は苦しさに涙を浮かべた。
 「辛イナラ、緩メテヤル」
 「大丈夫。ふ…。もっと、…っ、酷くても良いから」
 身体中がコードで絡め取られて、あちこちを好き勝手に愛撫される。すっかり蕩けてしまった顔を客に見られているのは、もう頭にはなく、ただジークが与える快感だけを求めていた。
 「久住。声モット出セ」
 「や、あぁぁあ…いっちゃ…まだ、まだいきたくな…ぁ、ああっ」
 乳首を捏ねられ、ビリビリと電流のようなものが流れる。たっぷりとオイルで濡らされたそこは、小さくともぷっくりと立ち上がっており、何度もコードが巻きついては縛り上げ、我慢できず声が漏れる。
 そうして緩まった孔を、まだ質量を大きくしたコードが中を蹂躙し、久住は今日何度目かもわからない射精をした。
 「ジークっ…ジーク…ぁ」
 既に久住にもう正常な意識はなかった。ただ与えられる快感に体を揺らし、唾液や涙が混じった酷い顔で甘い声を上げる。

 「オマエモ、早ク壊レロ」
 そんなジークの言葉も久住には届かない。

 「壊レテシマエバ、オマエモ、キット楽ニナレルノニ…」
 久住の頬を柔らかくコードが撫でる。しかし、久住にはその意味はわからず、ただ大きく口を開けてオイルで濡れたそれを舌で迎え入れた。

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