その日、陸斗はサークルの先輩と雪山に登っていた。それほど難易度が高い山ではなく、雪山の初心者である陸斗も登れるだろうと選ばれたそこだったが、中腹を過ぎた辺りでいきなり吹雪に襲われた。
目も開けられないほどの強風と、足先から凍っていくような冷気。一歩も動けなくなった陸斗が次に目を開けたとき、周りに人の姿はなかった。
「嘘、だろ…」
スマホを取り出してみるものの、もちろん圏外。あたりはずっと開けた真っ白な平野。土地勘のない陸斗にとっては最悪な出来事だった。
「とりあえず、山を降りよう」
山の麓にはログハウスがある。皆と別れたとしてもそこにさえたどり着けば助けを呼べるだろうと、陸斗は辺りを見回す。
日の沈む方向から降りるべき方角は分かったが、それは途方もない距離だろう。ここまでだって経験者に先導されながらも、3日かけて登っている。陸斗はため息をつくと、ゆっくりと足を進めていった。
「…心細いな」
日が落ちてきて、陸斗はテントを張ってスープを温める。万が一、一人で遭難した時のためのレクチャーは受けているが、それでも、不安な気持ちは拭えない。
陸斗が雪山に憧れを持ったのは、父親が同じく雪山に登るのを趣味にしていた人だったからだ。しかし、彼は陸斗がまだ幼い頃に、遭難したまま行方不明となっている。写真でしか知らない父の姿。男性な顔立ちで、焼けた肌とすらりと高い身長が特徴の父に、成長と共に瓜二つになっていく。
それもあって今回、陸斗の母親はこの登山に関してあまり良い顔はしなかった。同じ道を歩まないでと泣き付かれたほどだ。
だが、陸斗にとってはいつも自分と写真の父親を重ねて見ている母親に反発したい気持ちもあった。育ててくれた恩はあるものの、どこか最近は異様な熱っぽさを感じていた。母親のねっとりとしたそんな視線は感じが悪いものでしかなく、逃げ出したい気持ちもあったのかもしれない。
雪山はそんな陸斗を静かに受け入れてくれるのだ。
「……。」
遭難から5日ほど経っても、一向に陸斗は下山できなかった。方角は合っているはずである。それでもいくら歩き続けても、永遠に雪が降り積もる平野だけが続くのだ。
そうして今日、最後のビスケットを口にした。食料はもうなく、腹が減っては雪を口にしている。だんだんと衰弱していた陸斗は、その日、早いうちから横になりたくてテントを張った。
「いつまで、歩き続ければ良い?」
すっかり独り言に慣れてしまった陸斗はその後もぶつぶつと1人で会話を続ける。そうでもしないと、不安に押し潰されそうなのだ。
「…父さんも、こんな夜を過ごしたんだろうか?」
陸斗はそのままゆっくりと瞼を閉じた。
(なんだろう、とてもあたたかい…)
雪山の冷気が入るテントで寝ていたはずの陸斗は、不思議とそんな気分になった。思考は起きているが、あまりの気持ち良さに瞼がとても重い。
ふと、自分はもう死んだのだと思った。あの真っ白で残酷な雪山から、やっと解放されたのだと。そう思えて余計に力が抜けたのもある。
それから、ゆっくりと持ち上げられる感覚。いや、正確にいえば、宙に浮かぶ感覚だった。ふわふわと釣り上げられている気がして、陸斗は重い瞼を少しだけ開ける。
「っ、…なんだ⁉︎」
しかし、そんな穏やかな気持ちは一気に去っていく。
陸斗が見たのは……大きな台形の鉄の塊。そうとしか現せない。空に浮かぶそんなものをなんて言えば良い?飛行機でもなく、なのにふわふわと浮かぶそこへ、陸斗の体がゆっくりと吸い込まれて行くのだ。
下は雪山だ。どんどんと高くなっていき、寝ていたはずのテントが小さくなっていく。どんなに暴れても、上っていく陸斗の体はびくともせず、そうして開いた扉の中へ、陸斗は消えていった。
次に目を覚ました時、そこは機械に囲まれていた。雪山を最後にした後、ぷつりと意識がなくなり、どれくらい経ったのがわからない。今の陸斗の体は見知らぬ場所に寝かされており、いくつもの電子モニターが見知らぬ言語を表示していた。
ドキドキと痛いくらいに心臓がなっている。いつの間にか裸にされた体が、天井から伸びているいくつものコードによって拘束されており、陸斗は身の危険を感じてぐらりと眩暈がした。
「我の言葉がわかるナ?」
突然、そんな声が聞こえた。あたりを見回すが人影はない。ただ、電子音のような、けれど肉声にも聞こえるようなそんな不思議な声がその空間に響いているのである。
「いったい、これは何なんだよ!」
「驚くのもわけはナイ。ワレらに少しだけ協力してもらうダケ。お前は被験体に選ばれたノダ」
どこか聞き慣れない抑揚が頭を痛くする。突然告げられたその言葉を、陸斗がすんなりと受け入れられるはずがなかった。
「…っ、おい!」
天井から伸びていたうちのコードの一つが、陸斗の性器に巻きつく。突然の出来事に抵抗しようとするも、陸斗の自由は既に奪われている。コードに縛られた体はただされるがままで、次に現れた筒のような形のものに、そのまま萎えた性器が嵌め込まれた。
「大丈夫ダ。気持ちよくしてヤル。だからいっぱい出してくれてイイ。皆、これに病みつきになるのだカラナ」
そんな言葉も共に、幾つもの銀色の細長い手のような機械が伸びてくる。それらは陸斗の体を撫でたり、摘んだりと身体中あちこちで好き放題に動き出した。
「や、…やめ、ん、あぁ…」
びりびりと体に電気が流れているようだ。登山の間は自分で処理をしていなかったせいもあるが、こうして触られると性器の先からはだらだらと白濁の液が漏れ出る。それだけでなく、性器に被る筒のようなものが、ゆっくりと上下に動き、さらに興奮を高めていた。
「っ…ふ、あっ、あんん…、い、いっ…」
腰が自然に上下して、更に強い刺激を求めてしまう。触れられる胸も腰もどこももどかしくて、上手く射精が出来ずぐるくると気持ち良さだけが頭を支配していく。
「じ、自分でさわ、っり…た、おねが…」
体の自由はコードで縛られているために利かない。陸斗の体はすっかりと汗ばんで赤く染まっていった。
「いきた…はやくいき、ぁ、ぁあ、たい…ん、ふぁ、お、おね…ぃ」
ガクガクと身体中が震える。陸斗の思考は既に射精することだけで埋まり、尻周辺に温かなジェルをかけられたことに気付かなかった。
「あっ、あぁぁぁあ…っ」
後孔に小さな機械が入る刺激で、性器から勢いよく射精する。どくどくと筒の中に吐き出したそれは、空気によって吸い出されてどこかへ消えていく。
「良いゾ!もっとダ!」
射精を終え呆然としていた陸斗だが、刺激は止まない。力が抜けた後孔に質量のあるものがゆっくりと埋められていくのである。
陸斗の足を抑えるコードが引っ張られ、腰があげられる。するとそこに入る銀の機械が見えて、陸斗は喉が鳴る。
「ひ、っ、やだ、…こわ、」
角が取れた円柱のそれは、ジェルを纏いながらゆっくりと陸斗の体に埋め込まれていく。
しかし、陸斗の意識があったのはそこまでで、恐怖と共にそのまま失神してしまった。
次に目を覚ますとそこは見知らぬカプセルに閉じ込められていた。立った状態でありながら、体に負担はなくどこか浮いているようにも感じるそのカプセルの中で、陸斗は辺りにも同様のカプセルがいくつもあることに気付いた。そうしてその中に、自分と同じように裸で納められる男が何人もいるのだ。
「っ、嘘だろ…」
あまりに非現実的な状況に頭がついていかない。しかし、あの雪山で寝転がっていた時の体の疲労や空腹感は一切なく、むしろこれが夢だと思えるほどに急転的に状況は移り変わった。そして…。
「父さん…」
まるで時間が止まったかのように、失踪前に撮られた写真そのままの父親の姿があった。穏やかにそこにいた彼は、眠っているのか目を閉じている。
「っ、おい、ここから出してくれ。お願いだ」
陸斗はカプセルの中でそう叫んでガラスを叩く。その音に、あたりのカプセルの中にいた男たちの視線が陸斗に集まり、父親の視線もこちらを捉えた。
「何事ダ?」
そう陸斗を凌辱していたときの声が反応する。
「ここを出してくれ」
「雪山に戻りたいノカ?死にかけで寝転んでいたくせしておかしなやつダナ」
「っ、それは…。いや、今はそれは別なんだ。あそこにいる男に合わせて欲しい。生き別れた父親なんだ」
「フム?」
暫く静かな時間が続いた後、陸斗のカプセルが開く。そのまま父親の元へ駆け寄ろうと踏み出した陸斗だが、がくりとその場で腰を落とした。力が入らないのだ。
「っ、なんで…」
ふと記憶の最後に、尻へと大きな何かを入れられていたことを思い出す。かっ、と陸斗の顔が赤くなり、恥ずかしさで俯いた。
(あんな、酷いこと…)
そんなとき、陸斗の目の前に足先が見えた。急いで顔を上げた陸斗が見たのは、先程までカプセルの中にいた父親の姿である。
「俺の息子らしいって、こいつに聞いて。本当か?」
彼は頭上をそう指差しながら、陸斗に話しかける。こいつ、と表現するのが聞こえてくる声に対するものだろうと陸斗は何度も頷いた。
「山吹陸斗。今はもう大学生で、えっと…父さんの姿は写真でしか見たことなくて」
目の前の彼に向けて父さんと告げるのはどことなく恥ずかしかったが、陸斗の言葉に彼は柔らかく微笑んでくれた。
「そうか、陸斗。あぁ、確かにそう名付けた息子がいる。俺の記憶ではまだ小さかったお前しかないが、そうか、デカくなったんだな」
陸斗は彼にそう声をかけられ、涙を浮かべる。彼もまた、陸斗の体をゆっくりと抱きしめてくれた。
「本当に親子なんダナ。素晴ラシイ!調べたいことが山ほどアル。こっちダ、こっちにコイ!」
どこか興奮したような声が聞こえて、いくつものコードか2人の体を持ち上げる。そうして見覚えのある電子モニターの場所まで連れてこられ、前と同じように体を固定された。
「散々な再会だな。良いか、陸斗。抵抗はしなくて良い。こいつは俺たちの体を傷付けることはしない」
「父さん、でも俺、怖くて」
「大丈夫だ、快楽に身を任せて仕舞えば良い。それがここで生きてく1番の答えだ」
またいくつもの銀の手のような機械が伸びてくると、陸斗と父親の体を撫でるように動き、性器には筒がはめられた。
「さぁ、データをヨコセ!親子だと成分はまるっきり一緒ナノカ?体の作りハ?全部教えロ!」
さっきよりもずっと早口で高揚している声と共に、また体に刺激が与えられる。
「ん、あぁ…はっ…」
陸斗の目の前で父親の体が同じように犯されていく。既に彼は目を瞑って、与えられる刺激に声を漏らしていた。
「あぁ、体は同じような骨格ダ。肉付きに違いはあるが、筋肉の位置も近イ。感度は経験によるものカ?息子の方が鈍いナ」
ぶつぶつと頭上から聞こえる声が、陸斗と父親の体の比較を始める。
「オオ!精液の成分が近イ!遺伝子もなのカ?どうなっている、もっと出セ!」
高揚していく声と共に与えられる刺激が強くなっていく。
「ん…あぁ、ふ」
「っ…ん、ぁん…」
そのまま、陸斗も父親も与えられる刺激に体を任せ続けた。
性器を覆う筒が激しく上下に動き、身体中を幾つもの機械に弄られる。
「っ、あぁ、こ、わい…」
陸斗の腰が上げられ、銀色の機械が埋められる。恐怖に体を強張らせた陸斗だが、次に聞こえてきた父親の嬌声に視線を向けた。見たこともない父親の乱れた姿。そして互いの嬌声が混ざりあう異様な空間に、陸斗はもう正常な意識を保てなかった。
『連続行方不明者の相次いだ帰宅について、警察は…』
テレビから聞こえるいつものアナウンサーの声。リビングには、3人で映る写真が新たに飾られていた。陸斗と両親、新しく撮ったものである。
あの夢のような日々から戻り、あそこに囚われていた全員が雪山を降りた。結局、全てがなんだったのかは誰もわからない。
「さて、そろそろ行くぞ」
「うん父さん」
けれど、2人はまた雪山を目指した。母親が寝ている隙に家を出て、車を走らせる。この平和な日常ではなく、あの雪山の上での日々に体が疼くのだ。もう一度、あの快楽を。
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