グオ~ギュルルルル……。
収容人数200人は超える都内大学の講義室の中でその音は響き渡った。
音の主である倉敷虎之助は高校時代に所属していた野球部で鍛え上げた筋骨隆々の肉体に似つかわしくない情けない声で、ただ一言ポツリと「腹減った……」と言い放ち腹を抱えて机に突っ伏したのだった。
体育学部2年所属といっても別に体育教師になりたいわけでもない。大学に進学したほうが就職に有利だろうと始めたキャンパスライフなので、明確な目標を持たずに過ごしていたところを素行の悪い先輩たちから良いカモとみなされてしまったのだ。
内輪での賭けマージャンで3か月分の生活費を持っていかれてしまい、虎之助はほぼ毎日を友人からもらったなけなしの食料でしのいでいた。
「お前、仕送りどうしたの?」
「俺の母ちゃん、金にはチョー厳しいの。先輩たちから金巻き上げられたって知られたらカンドーされる」
「居酒屋でバイトしてたろ?賄いもらえるんじゃねえの?」
「……あれだけじゃ足りねえよ……」
確かに虎之助ほどの巨体であれば成人男子が必要とする熱量の数倍は必要なのだろう。同情した友人たちは手持ちのガムや飴玉をお供えするかの如く突っ伏した頭の上に載せてやった。
「そういや、この前バイトのチラシもらったんだった」
友人のうちの1人がぐしゃぐしゃに丸められたチラシを虎之助に差し出した。
「1回で5万!?他のやつ応募してねえの⁉」
紙面に書き出された内容は【求募:健康優良で体力に自信ある男子 1回:5万 長期継続可能であれば尚良】とあり、今すぐにでもまとまった金が欲しい虎之助にはずいぶんと魅力的に見えた。
「でも、これ、雇い主がさ……」
「ああ、あの人か……」
チラシの連絡先を見ると、【福祉学科教授:荒谷浩】と書かれている。
周囲の人間はこぞって顔を見合わせて渋い顔をするので、「荒谷教授ってやばい人なのか?」と尋ねると「男子学生にエロいことするって噂があるんだよ」という返事が返ってきた。
友人から聞かされた噂に一旦はためらったものだったが、たった1回で5万という魅力には抗えなかった。
虎之助は連絡を取り電話で指定された場所を訪れドアを開けると、そこにはさえない風貌の中年男性が待ち構えていた。
「やあ、君が連絡をくれた倉敷虎之助くんだね。僕は荒谷浩です、よろしく」
握手をしようと手を差し伸べ穏やかに笑う様子だけでは噂のようなことをする人物には見えず、戸惑いながらもバイトの内容を尋ねてみる。
「バイトってどんな事すればいいんすか?」
「君自身は何にもしなくていいんだよ。ちょっとしたデータを取らせてほしいんだ」
「それだけで良いんすか?」
提示された値段が破格だったので、どれほどの重労働を課せられるのかと身構えていただけに拍子抜けしてしまう。
「服と下着を全部脱いであの椅子に座ってくれるかい?寒いだろうからこれを羽織っていいよ」
そう言って指をさした先には歯科医などでよく見かけるような形をしているがフットレストの位置がふくらはぎ辺りに来るような、少し変わった椅子があった。
手渡された浴衣タイプの検診衣へ言われるがままに下着を脱いで着替え、指定された椅子に座ると画面に何らかのグラフが表示された端末を何台も載せた台車を抱えた荒谷教授が近づいてくる。
「じゃあデータを取る前にちょっとだけ説明させてもらっていいかな?」
説明と同時に端末とつながったケーブルが複数に絡み合った機械を頭に取り付けられると、画面上のグラフが上下に揺れ動くのが見えた。
「僕は体が不自由な人が抱える、あるストレスを緩和するための研究をしているんだ。それがなんだかわかる?」
「身体を思うように動かせないとか……」
「そうだね、それも関係はある。ちょっと体感してもらおうかな」
何とはなしに手すりに置いていた腕が縛られる感覚がした。驚いて手元を見るといつの間にかがっちりと固定されている。しかも腕だけではなく脚や胴体までもだ。
荒谷教授を見やるとその手元にはリモコンが握られていた。
「君が座っている椅子は分娩台といってね、名前の通り分娩に使われることを主としているからこういったこともできる」
リモコンを操作すると椅子が斜めに傾き、両足を固定しているフットレストが左右に開いた。それにつれて検診衣もはだけていき、無防備な状態のペニスが外気にさらされてしまう。いくら同性とはいえ親しくもない相手に性器をさらしてしまうのは恥ずかしく隠そうとしたのだが、がっちりと固定された状態ではどうすることもできない。
「ちょっ、これ、やめてくださいよ!」
「自分の意志では体を動かせない歯がゆさを感じるだろう?重篤な状態だと眼球を動かす程度しかできない人もいるんだ」
「そ、それはかわいそうだと思うけど、俺がこんな格好するのと何の関係が……ひっ⁉」
自分の体勢に抗議をしようと荒げた声が途中で裏返ってしまったのは、急に首筋をくすぐられるような感触がしたからである。
「この椅子には改造を施してあってね、背もたれの部分から色々な仕掛けが出てくるようになってる」
虎之助からは見えないが背もたれ部分の数か所から折り曲げ可能な金属が突出し回り込んでくる。その先端には毛筆のようなものやらいかがわしい動きを見せるものなど様々な種類のものがあった。
「人間の生殖本能とは不思議なもので、そういった状態でも勃起してしまうことがあるんだけどそれを自分で処理したくてもできない」
自分の体のまわりで見慣れないものに蠢かれて話に集中できず、まるでこちらの様子をうかがうように接続部分を折り曲げては伸ばしを繰り返す機械にくぎ付けになる。
「つまり、僕は体が不自由な人の性的なストレスを緩和したいと考えているんだよ」
その言葉と同時にリモコンのボタンを押すと不穏な動きをしていた金属が一斉に明確な意思を持って虎之助の体に襲い掛かった。耳裏や腹筋をなぞるようにくすぐられる程度ならまだしも、両乳首を引っかかれたり強弱をつけて引っ張られたりペニスをしごくような動きをされれば否が応でも感じてしまう。
「うぁっ、あっ、やめ、っ、あっ、あっあ……」
今まで機械から愛撫された経験などしたことなどない。未知の快感に翻弄され獣のような断続的な悲鳴を上げるしかできない虎之助を荒谷教授は冷静な目で見つめていた。虎之助の頭に取り付けた機械からは逐一何らかのデータを採集しているようで端末画面のグラフは激しい数値の上下を繰り返す。「もう少し必要かな……」画面を見つめながら呟き、またリモコンを操作すると今度は座面の裏側から新たな機械が出てきてペニスから垂れ流れたカウパーの滑りを活用してアナルへの侵入を果たした。
「ひぃっ⁉」
最初はゆっくりと動いていたものが段々と激しい抽挿を繰り返してくる。
「イヤだっ、い、イク、あっ、うぁっ、あ、あああっ……!!」
容赦なく前立腺へ刺激を与え射精を促され、抗うすべもなく虎之助は勢いよく精液を吐き出すしかなかった。
射精した後の倦怠感を抱え、肩を上下させながら息を整えていると笑顔の荒谷教授が近づき見下ろしていた。
「ありがとう、いいデータが取れたよ。また次もお願いできるかな?」
未だ固定されている虎之助の手には5万円が握らされていた。快感で呆けた頭では深く考えることもできず、ただ力無く頷くだけだった。
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